レクリエーショナル・ビークル的音楽雑記

音楽にまつわるお話を徒然なるままにします。好きなもの紹介・新譜レビュー等

日本のシンガーの発声スタイルの変遷-総括-

前回までのあらすじ

50~70年代の所感
日本のシンガーの発声スタイルの変遷-その1-


80年代の所感
日本のシンガーの発声スタイルの変遷-その2-

 

90年代の所感
日本のシンガーの発声スタイルの変遷-その3-

 

00年代の所感
日本のシンガーの発声スタイルの変遷-その4-

 

10年代の所感
日本のシンガーの発声スタイルの変遷-その5-

 

今回は約60年のシンガーの変遷を振り返った上で、総括してみたいと思います。

 

全体的な所感

1.時代が進むにつれて、歌手の間口がどんどん拡がっていった

間違いなくこれはあって、昔は声楽出身の人や選りすぐりのエリート、言うなれば声のエキスパートがプロとして歌を歌う存在であったのに対して、今やyoutubeで歌ってみたをあげるのは当たり前、なんならそこからバズればそこそこ有名になれるし、シンガーとしての地位を一定得ることが出来る訳です。

良い時代になりましたね。

 

2.発声技術の進歩によって、楽曲のキーが高くなっていった

これは特に男性シンガーに言えることですが、90年代以降はその流れが特に顕著ですね。

最近だとhiD、hiEなどの高音域の多用が、ポップスでも珍しくなくなってきました。

キーが高くなることが必ずしも良いとは言えないと思いますが、ボイストレーニングが普及、進化していることの何よりの証明になっていると思います。

 

3.音楽ジャンルのブームメントの歴史の浅さ

直接歌とは関係ない部分になりますが、振り返っている時に凄く感じました。

そもそも世界的にもポピュラー音楽ってそこまで歴史が深いものでもないので、そりゃそうだよねって感じではあるんですが。

それでも音楽ブームの層がボリューミーに感じるのは、移り変わりが早いからなんでしょうね。

大体5~10年スパンでブームの周期が訪れていった、という印象です。

 

4.パワーのある地声的発声から、柔らかな発声へ

こちらも男性シンガーに特に言える傾向かなと思ってます。

音楽ジャンルのブームの影響も勿論ありますが、日本音楽界に於いてはこの傾向が強い気がします。

90年代のバンドブームまでは、力強いミドルボイスを放つシンガーが多かったですが、00年代になるとR&Bブームの到来の影響もあるのか、声のポジションがちょっと軽めなシンガーが増えてきたな、という印象でした。

直近だと、むしろヘッドボイスやファルセットが武器というシンガーも増えてきていますよね。

それは下地としてそもそも柔らかなミドルボイスの発声が必要にもなるので、ある種必然の流れかなとも思っております。

 

現代のシンガーに個性はなくなってきているのか?

日本のシンガーの発声スタイルの変遷-その1-の冒頭でも挙げていた感覚の話です。

 

結論から言うと、そんなことはないですね。

ただ、個性へのアプローチが昔と現代とで変わってきているなーというところが振り返った上での感想です。

昔のシンガーはその声質そのものが個性と謳われやすかったのに対して、現代のシンガーは歌い回しや持ち前の発声技術で差別化してきている傾向が強いと思いました。

現代のシンガーはこの音楽ジャンルが飽和化した状況に於いて、創意工夫を重ねている訳です。

そういう意味では、現代のシンガーは昔よりも難しい状況に迫られていて、ストイックにならざるを得ない状況が今なのかもしれません。

 

では、何故現代のシンガーに個性がなくなってきたと感じていたのか?

ここからは完全に個人的な感覚での話にはなりますが…

理由は色々あると思います。

 

1.先駆者達が偉大すぎる

やはりクリエイティブ性が関わることについては、0から1を作り上げた人達の方が、1を10にする人よりも、伝説になりやすい訳です。

それがそのまま当てはまる話ではない気もしますが、各ジャンルの先駆者達がどうしても基準になってしまう状況は回避出来ないのかなと。

結局現代のシンガー達は、先駆者達のどこかの要素で構成されていることが多いので、そういった印象が芽生えてしまいやすいのかなと思います。

歌い方がどうあれ、Deathのチャック・シュルディナーは偉大ですし、auto-modのジュネさんは偉大なのです。

 

2.シンガーの母数増によるコモディティ化

スマートフォンと一緒みたいな感じ。多分。

そもそも現代は時代的に様々なシンガーを目にする機会が多いのかなと思います。

それは時代が進むごとに加速していき、同時に良い歌声を持つ人や、良い歌い方をする人を目にする機会も増えていっている筈で。

つまり、各シンガーの性能差の差分が昔に比べると見えづらくなってきている状況 = 結果的に個性を感じにくい ということなんじゃないかと考えます。

すいません、これは完全に仮説です。

 

3.ボイストレーニングが浸透しすぎた

声優業界の事情でも時々聞く話だと思うんですが、学校に入ると画一的な指導が行われ、結局画一的なスタイルを持つ人たちが量産される(いわゆるイケボみたいなやつ)の様な話にこれは近いのではと思います。

恐らく今はプロから一般の方々まで、ボイストレーニングを受けている人が割といらっしゃるという認識です。

で、ボイストレーニング教室は発声周りの筋肉群の鍛錬が目的というのもそうなんですが、同時に適切な発声を教えてもらう場でもあると。

適切な発声をするということは、筋肉や声帯の動き方にはある程度の共通項的な要素が含まれることになる筈で、結果的に声の響きや出方などがセオリー的なというか、そんな感じになりやすい訳です。

ボイストレーニングの浸透=画一化が必ずしも起こる訳ではないですが、ボイストレーニングの先生で、歌上手いし、発声練習時のスケールの出来も素晴らしい。でも歌声自体は結構どっかで聴く様な感じみたいなこと、そこそこあったりしないですかね。

 

4.世代的な感覚の乖離

これはシンプルに、若年層が特定の相手から受けるインパクトと、そうでない層が特定の相手から受けるインパクトとでは、ギャップがあるよねという話。

昔の音楽ブームを知っている人が聴いたら、「あ〜この手のやつね」となるものが若者にとってはひどく新鮮なものに映ったりする現象、よくありますよね。

ファッションに於いても同じような感じですね。

おっさん達が着るKappaのジャージと、若者が着るKappaのジャージとでは、シニフィエが違ってくるのです。

念の為言っておくと、僕がおっさんだと言っている訳ではないです。

 

時代や音楽と共に歌手も進化している

昔からのシンガーで今もなお歌がバカ上手い人(玉置浩二とかASKAとか)を見ると、やはり未だに先代の圧倒的存在感というか、実力に感嘆してしまうことは否めないですが、今までの積み重ねや経験値が多大なものであることも事実。

現代の若手シンガー達の歌唱技術は間違いなく昔よりレベルアップしてますし、では彼らが40、50と歳を積み重ねていった時にどうなっているのか、というのは凄く楽しみでもあったりします。

僕も頑張ろうと思います。

 

そして約60年間振り返ってきた中で、この人好きだけど紹介出来なかったみたいなことが無数にあってですね、今後癖のある歌い方ボーカリスト列伝的なものもやりたいなと思ったので、多分やります。

 

ここまで読んでくれた方、ありがとうございました〜